セロハンテープと偏光板を用いてクリスマスツリーを描く

物工/計数 Advent Calender 21日目を担当するぬん(だったり園田だったり)です。5月に東京大学本郷キャンパス等で行われる五月祭、その中でも工学部6号館にて物工/計数が合同で主催する工学博覧会(光班)の宣伝もかねて本ブログを書こうと思います。なお、今回の記事の着想は産総研様のサイトから得られたものであり正直そっちを見た方がわかりやすいかも

 

  この記事では複屈折という物理現象を利用することで透明な板とセロハンテープ、そして偏光板を使ってクリスマスツリーのお絵かきをしようという「物理×クリスマス」って感じの記事です。物理を知らない人でも読めるように丁寧に書いたつもりです(物理をある程度知っている人には少し冗長かもしれせん)。

 

 本記事は4つの章立てからなっており第1章で簡単な背景説明、2章では実際にお絵かきをしていきます。第3章では少し理論的な章になっておりセロハンテープと偏光板で色がつく理由を解説します。第4章は工学博覧会の宣伝をしつつまとめとなっております。(4章の宣伝がある意味一番大事なのでめんどくさくなったら4章まで飛んで博覧会の宣伝を見てださい)

 

 

どうしてこのようなことをしようと思ったのか

 

 光の進む速度はどの物質中でも同じではないという話は高校で物理を取った人は聞いたことはあると思いますし、そうでない人もまぁ異なる物質中では速度が違ってもおかしくないかなって思ってくれると思います。真空を進む光の速度に対してどのくらい遅いか、で屈折率というものが定義されます。実際、光が水(屈折率:約4/3)の中を進む速度は空気(屈折率:約1)の中を進む速度の約3/4倍ことが原因でプールの底の模様が曲がって見える「屈折」という現象が観測されます。これが高校で習う屈折率のお話ですがこの話が適応できるのは等方的な物質(物質の中からどの方角を見ても景色が同じに見える物質)であり、異方的な物質(物質の中から見える景色は方角によって異なる物質)では少し異なります。

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 物理学において光は波(電磁波)として記述されます。物質中に侵入した光の電磁波が物質中の電子を揺らし、揺れている電子から放出される電磁波(双極子放射)との波の重ね合わせが全体としての光の波になり結果として光の速度が遅れる、という結果に繋がります。これは物質の構造によるものなので、上下と左右の構造の異なる異方的な物質では上下方向の波(縦偏光)の屈折率と横方向の波(横偏光)の屈折率が異なります。この性質と偏光板(ある方向の波の成分しか通さない板)を使うととセロハンテープが貼られた透明な板に色がつくようになります。

 

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偏光板(*1

  偏光板は上の写真のような感じなので偏光板が通す光の方向を垂直にした場合光が見えなくなります(これをクロスニコルと言います)。色が付く具体的な理論の部分は後回しにしてまずは実際に色がついている様子を見ていきましょう。まずは写真をみてください。

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プレパラートには右に行くほどセロハンテープが重ねてあります。左は偏光板を当ててない状態、中央は同じ方向に重ねた状態、右側はクロスニコルにした状態を表しています。上の写真を見ると透明なはずのプレパラートが偏光板を挟むことでセロハンテープの重ねてある枚数ごとに異なる色が見えることがわかります。また偏光板を回転させると見える色も変わってきます。透明に見えるのに偏光板を使うだけでカラフルな色が見えるというのはとても面白いと思うので偏光板が手に入りそうな人はぜひ自分でもやってみてください。また、このことからセロハンテープをうまく重ねて貼ることでお絵かきをすることができるということがわかると思います。今回はこの現象を用いてクリスマスらしくクリスマスツリーの絵を作成しようと思います。次の章で実際に作っていこうと思います

 

 

クリスマスツリーの作成

再掲になりますがセロハンお絵かきをするために必要な道具は以下の4つです。

  • 透明な板(大きさは各自の好みで)
  • セロハンテープ(私はダイソーで購入しました)
  • 偏光板2枚組(板を覆えるサイズは必要です)
  • ハサミ

偏光板はAmazonなどでぽちれますが今回はできるだけお金をかけたくないので学科の倉庫を漁り、もう使えなさそうな液晶ディスプレイを引っぺがして偏光板として利用しました。ちなみに液晶ディスプレイはざっくりいうと2枚の偏光板の間に液晶という固体と液体の中間状態の物質に入れた構造を取っているのでひっぺがせば偏光板が2枚も手に入ります。

 

作業手順は以下のように単純です

  1. 描きたい絵を思い浮かべ下書きに残す
  2. 下書きの通りにセロハンテープを切り取り透明な板に貼っていく。重ねて貼る回数を色々変えてカラフルな絵が描けます
  3. セロハンテープを貼り終わったら偏光板を挟んだら完成です

まぁこんな感じで至極単純です(まぁセロハンテープを欲しい形に加工するという作業が実は難しいのですが...)。、こんな感じで作ったクリスマスツリーがこれです

 

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クリスマスツリー

 

と、まぁ今回の記事のメインで話したかった部分はこんな感じです。上と下の写真は偏光板を回転させたので別の色になってます。私のしょぼしょぼスマホで撮影したのであんま綺麗に撮れてないですね。実物はもう少し綺麗になっているので気になった方は自作してみるか5月祭の工学博覧会に足を運びましょう。この構想を得た最初の方はもっとカラフルで複雑な絵を描くつもりだったのですが思いのほかうまくいかずにこんな感じになりました。

 次の章ではなんでこんな操作で透明な板に色がつくのかについて解説しようと思います。数式を用いてゴリゴリ計算なんてことはないので普段物理に慣れていない人にも理解できると思います。不思議な現象のメカニズムが理解できるとより一層面白くなると思います。

 

セロハンテープで色がつく原理

 光は波であるということは先に述べましたが、波の波長(振動一周期分の波の長さ)によって人間は色を判断しているのをご存知でしょうか?人が見ることのできる可視光と言われる光の波長域は大体400~800nmと言われています。1nm(ナノメートル)は10^-9mと同じです。

 

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光の色と波長の関係(*2

光の波長の長さによって見える色が変わるということを頭の片隅に置きつつ記事を読んでいってください。

 第1章で述べたように光の波は上下方向の波(縦偏光)と横方向の波(横偏光)に分解して考えることができます。よって波を縦偏光と横偏光の2成分に分け、セロハンテープに侵入した時の振る舞いを見ていきます。セロハンテープは第1章で述べた異方的な物質の代表例の1つであり光の進む速さは縦と横方向で異なります。直感的にいうと、波は空気とセロハンテープの境界面上でも連続であるので空気中とセロハン中の波の振動数は等しくなります(真面目にやるなら電磁気の境界条件を考えれば良いです)。「光の速さ=1秒間に振動する回数(振動数)× 一回の振動で進む距離(波長)」で表され、振動数は一定なので光の速さが遅くなったということはセロハンテープに光が侵入したことで波長が短くなったことを意味します。

  

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異方的な物質(セロハン)に入った波の変化

2方向で光の進む速さが違うので波長も異なり光がセロハンを抜ける時には2つの波の位相関係(山の位置関係など)が最初と変わってきます。縦偏光と横偏光がどのように時間変化するかをしたの図にプロットしてみました。赤上の波がオレンジ上で観測されるのはちょっと時間が経ってから、青の波がオレンジで観測されるのはさらにちょっと後・・・のように考えると時間変化を追うことができます。

 

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楕円偏光

 

  上の図を見ると電磁波(光の波)の偏光が楕円回転していることがわかります。これを楕円偏光と言います。 楕円偏光がどのような形になるのかは光の波長の長さによります(波長が違うと縦偏光と横偏光の位相の関係が変化するからです)。つまり色が違うと楕円偏光の形が異なるということです。ちなみに光の波の振幅の大きさは光の強さを表します。ここまでがセロハンテープと偏光板で色がつくことを説明するための前準備です。

 

 ではカラフルな色が出る理由を考察していきましょう。

 まず偏光板をかざすことで光の波を1方向に限定することができます。このおかげで光の波長、つまり色ごとに楕円偏光の形が固定されてます。例えば以下のような例を考えましょう。

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楕円偏光の一例(*3

上の図では青色の電磁波はテープを通すことで横偏光に、緑は円偏光に、赤は縦偏光になりました。しかしこれだけだとどの色の強度も同じなので人間の目には区別ができません。そこでもう一度偏光板を使ってみましょう。

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偏光板 (縦偏光バージョン)(*4

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偏光板(横偏光バージョン)(*5

上の二つの図を見ると偏光板が通す偏光の向きに垂直な波の成分がカットされることにより、偏光板の向きと同じ方向に偏光を持つ色の光の色っぽく見えることがわかります。これがセロハンテープに偏光板を重ねることで色が見える仕組みです。

 

*1

 

まとめと工学博覧会の宣伝

 本記事のまとめとして第3章の内容を簡潔に記した写真を貼っておきます。

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 本記事では透明なはずなのに偏光板というちょっとした操作で色が見えるようになるという不思議な現象について書きましたが面白いと思ってもらえたら幸いです。もし面白いと思われた方はぜひ東大で行われる5月祭にて工学部6号館で行われる工学博覧会に足を運ぶことをお勧めします。

 工学博覧会の光班では光にまつわる面白い展示を行う予定であり、今回紹介したお絵かきセロハンも別バージョンの絵で出す予定です。他にも視覚的に楽しめる展示やThe応用物理といった光通信だったりホログラムなどを展示を考えていたりと様々な層の方に楽しめるものになっていると思います。

 あと、私は工学博覧会では物性班にも所属しておりそこでは相転移と磁性をメインテーマに超伝導や様々な磁性の紹介などを考えていますが、なぜか私は「チョコレートと物理学」というものをテーマに展示を進めています。気になった方は物性班にも足を運んでください。

 

 

参考文献,写真出典

 *1,3,4,5の写真と理論部分の勉強 : 産総研様の「偏光板で遊ぼう(偏光万華鏡?)」

 *2 :  https://www.aist.go.jp/science_town/dream_lab/dream_lab_14/dream_lab_14_01.html

*1:写真を貼る